トップページに戻る
  少年リスト   映画リスト(邦題順)   映画リスト(国別・原題)  映画リスト(年代順)

Je suis le seigneur du château 罪深き天使たち

フランス映画 (1989)

レジス・アルパン(Régis Arpin)とダヴィッド・ベアール(David Behar)が主演する悲しいドラマ。原作は英国作家スーザン・ヒルの『ぼくはお城の王様だ(I'm the King of the Castle)』(日本での出版は2002年)。サマセット・モーム賞受賞作。原作を読んでも、映画だけ見ても、映画の邦訳は完全に間違っている。『罪深き天使たち』は複数形だが、悪いのはレジス演じる、「城主」の息子のトマだけで、家政婦の息子のシャルルはトマの陰湿な虐めの犠牲者だ。だから、もし「天使」をどうしても使いたいのなら『罪深き天使』とすべきだろう。シャルルが自殺するから「罪深い」という発想があるとすれば、そのような独断は人道から外れている。映画と小説とどこが違うか、それは映画の方がまだ救いがある点だ。虐めや誹謗はよく似ているが、その程度が全く違う。トマがケガをした時、シャルルがトマの父に叩かれるのは、ケガをさせたからではなく、「お前なんか、殺してやればよかった」の言葉に対してだが、原作では2度ケガをして、トマが故意にやったと思われてしまう。そして、シャルルの自殺の後、映画ではトマが後悔の涙にくれるが、原作では、自殺させたという達成感に満足する(児童小説史上、最悪のキャラクター)。似ているのは、シャルルの母の、家政婦から「城の女主人」になりたいと思う身勝手さだけ。なお、「城」とカッコ書きで書いたのは、トマの父は代々の貴族の家系でなく、産業革命期に工場主として成功し、没落貴族から城を買い取った新興ブルジョワにすぎないからだ。

時代は1954年。フランスの海岸に近いどこか(実際にはブルターニュ)。ロケ地は、1895年にサン=ピエールの伯爵によりネオ・ゴシック様式に改築されたル・レレのボーマヌワール(Beaumanoir)城。妻を病気で失い、息子のトマと2人だけで「城」に住む工場主の父は、夏休みの間、「バカンスには出かけたくない」という息子のため、トマと同年代の息子シャルルのいる家政婦を雇う。いい遊び相手になると思ったのだ。駅まで母子を迎えに行った父は、一瞬にして、若い未亡人に心惹かれる。一方、トマは、使用人の息子であるシャルルを、友達としてではなく、支配すべき相手として迎える。歓迎の挨拶は、シャルルの寝室の窓ガラスを割って石を投げ込むこと。第2弾は、シャルルのベッドの中に血まみれの死んだカラスを入れておくこと。息子がそんな目に遭い激怒する母も、好意を寄せる城主に「まさか」を期待し、そのまま城に留まる。母に絶望したシャルルは森に逃げ出すが、その気配に気付いたトマは、逃がすものかと無理やリ同行する。だが、夜の森と雷雨に恐れをなしたトマは、引き返そうとして、シャルルの母が「妻の座」を狙っていると中傷する〔半分は当たっているが〕。喧嘩となり、勝ったシャルルとトマは力関係が逆転する。そして、深い淵の上の倒木を無理して渡らせようとして、トマは転落。溺れたトマを、シャルルは責任感から助ける。しかし、病院で父とシャルルの母がキスするのを目撃したトマは、2人を引き離そうと、シャルルに「尻軽女が金持ち男にすり寄る」という風刺劇の相手を命じる。女装させられて練習する息子の姿を見た母は、息子を連れて出て行く。シャルルの母が忘れられないトマの父は、町までトマに会いに行き、そのことを知った母は、「城」のあるじとなれるチャンスとばかりに喜んで戻る。2人の結婚が確定し、トマの支配下で生きるよりは死を選んだシャルルは、海へと向かう。

レジス・アルパンは撮影時11才、典型的な美少年で、あまりに整った顔は時に冷たく、それが役柄にぴったりだ。出演作はこの1本のみ。ダヴィッド・ベアールは役の上では年上だが、実際には撮影時10才と年下。自殺を覚悟した時の笑顔が切ない。出演作は2本のみだが、子役としてはこの作品だけ。


あらすじ

映画の冒頭、病床の母の前で 本を朗読しているトマ。因みに英語ではトマス、短縮形はトム。朗読の最後は、「支配しないといけない」と終わる(1枚目の写真)。映画の今後を示すような言葉だ。朗読の終わるしばらく前に、母は、トマに頼んで、医者には禁じられている窓を開けさせるので、朗読とともに息を引き取ったのであろう。トマが心配して「ママ」と呼びかけると、空席のイスが映る。この間、一瞬だが、実際には、葬儀があり、月日も流れている。映画はそのまま父とトマが2人だけで食事をとるシーンに移行する。トマが学校の制服を着ているので、全寮制の学校から夏休みで帰宅した日の、久しぶりの再開での夕食だと分かる。父が、「今年の夏は、バカンスに出かけよう」と話しかける。「旅行なんかしたくないよ」。父は代りに、「お前の母のいとこに推薦された家政婦を雇おう。同じくらいの年の息子がいるから、一緒に遊んだらいい」と提案する(2枚目の写真)。1枚目と同じような写真だが、こちらには優しさのかけらもない。
  
  

城のある町に向かって走る1両編成のディーゼルカー。単線だし、如何にもローカル線だ。その狭い車両の中で、急に産気付いた女性を一人で手伝うシャルルの母。それを通路のドア越しにこわごわ見ている息子(1枚目の写真)。子供がどうやって生まれるかを初めて知ってびっくりしているのだ。終着駅についても車両を降りず、血の付いた手を洗ったり、汗まみれの体を拭いて一休みする母。「僕、ああやって産まれたの?」。「そうよ。どの子もね」。「ママのポンポンから?」。そして、お腹に手を当てる。「僕のこと、誰よりも好き?」(2枚目の写真)。「ええ」。「いつまでも?」。「そうよ」。妻は夫を、息子は父を亡くして2人だけ。仲のいい親子だ。
  
  

駅では、トマの父が戸惑っている。列車が着き、荷物は降ろされたのに、肝心の本人が降りて来ないからだ。それを見つけたシャルルが、「見て、きっと あの人だよ」と母に声をかける。母は、「ここにいると伝えてきて。急いで。私もすぐ行くから」と連絡に行かせる。シャルルは、夏らしい白ずくめの紳士に近付いて行き、おずおずと「ブレオールさんですか?」と声をかける。「シャルル・ヴェルネです」。紳士は、気さくに「ようこそ」と手を差し出す(1枚目の写真)。母のトランクを一緒に運びながら、「お母さんは?」と訊かれる。「トイレで休んでます」。「かげんが悪いの?」。「今は良くなりました。さっき、赤ちゃんが生まれたから」。「今、何て言ったんだい?」。一瞬の誤解が面白い。その時、母がやって来る。「あれがお母さん?」。「そうです」。思わず、にやりとする紳士。彼が自ら運転する高級車は、門をくぐると、1.5キロ続くブナの並木の間を走る。広大な敷地だ(335ヘクタール)。春の嵐で300本のブナが倒れたと話し、実際に倒れた木の幹が道の所々に山積みされている。そして、車は立派な城の前に到着。シャルルの母は、度肝を抜かれたハズだ。この先、母が当主に言い寄られて拒めなかったのも理解できる。扉を開け、「どうぞ中へ」と誘う紳士の態度も、一家政婦に対するものとはとても見えない。
  
  

リュックを取るため1人のろのろしていたシャルル。高い屋根から不気味なカラスの鳴き声が聞こえる。真上を見上げる。その姿を、トマが窓から見下ろしている。トマの姿が、シャルルから見えたかどうかは分からない。館内に入っても、その圧倒的な存在感に気おされて、ついつい母子で手をつなぐ。そこに、父が階段を降りてきて、「トマは失礼します。昼食後めまいがするとかで、ベッドで寝ています」と断る。それを聞いたシャルルの顔が長く映されるが(2枚目の写真)、ひょっとしたら窓の人影に気付いて、話と合わないと思ったのかもしれない。与えられた部屋に荷物を置きに行ったシャルル。大切な父の写真を机に立てた時、石が飛んできて窓ガラスが割れた。思わず首をすくめる。拳大の石を見て、窓に近寄り誰かいないかと見下ろす(3枚目の写真)。誰一人いない。シャルルは、カラスの声に怯え、部屋の隅にうずくまる(4枚目の写真)。
  
  
  
  

次いで、夕食のシーン。ここにはトマも出席している。父が食前の祈りを唱える。手を合わせ、口の中で同じ言葉を口ずさむトマ。目は、じっとシャルルを見ている(1枚目の写真)。一方のシャルルも、石を投げたのは彼に違いないとじっと見返す(2枚目の写真)。その席で、シャルルは突然、「僕の部屋の窓が 割れました」と言い出す。母:「なぜ、私に話さなかったの?」。「僕がやったんじゃない。石が…」と母に話す。「石?」。トマが、「鳥かもしれないな。前にもあったんだ。巨大なカラスが、窓目がけて真っ直ぐ飛んできた。庭に、死んだ鳥なかった?」と訊く。シャルルは、トマの父に向かって、「僕じゃありません、誓って」と言う。「もういいよ。明日、修理させよう」。
  
  

父は、翌朝、トマの部屋に入って行くと、寝ているトマを抱えて自分のベッドまで運び、そこで一緒になって寝る。亡き妻に対する寂しさを紛らせるためか? その姿を偶然見てしまったシャルルの目線でトマも目を覚まし、父を守るように抱く(1枚目の写真)。直感的に、シャルルの母に父を盗られると感じたのだろうか? 日中になり、シャルルがトマの部屋に行き、「一緒に遊ぼうか?」と誘う。トマは、本を読みながら「遊びたくない」と断る。しかし、シャルルは、「家の中を見せてもらえる?」と訊く。トマは冷たく見返しただけ(2枚目の写真)。「お父さんが言ったんだよ」。父の命令にいらだちつつ、わざと走って、次々と部屋の名前を連呼するトマ。動かずに座っているシャルルに、「ついて来いと言ったろ」。「興味ない」。それでも、トマは再び連呼を始める。「お前の部屋。あのベッドで祖父が死んだ」とわざと教える。シャルルは動かない。そんな姿を2階から見おろして、「まだ、下にいたのか? 僕に従うんだ」。「従う気はないね」。「従うんだ。お前とお前の母親は使用人だ。貧乏なくせに」。「貧乏じゃない」(3枚目の写真)。「父親は、なぜ家ぐらい買わない」(4枚目の写真)。「一緒に住んでない」。「離婚だな」。「インドシナで捕虜になってる。でも、きっと逃げる」。「何で分かる?」。「夢で そう言った」。「夢なんか当てになるか。僕は、夢は見ない」。
  
  
  
  

書斎で、父にアイス・ティーを用意するトマ。舐めてみて、味を確かめるところ可愛い。父はカナダから来た封筒の切手のことを話すが、トマは、封筒の中の機械の方に興味がある。もしくは、興味があるように見せかけている。父は、意に反して、それを褒めずに、「シャルルはどこだ?」と訊く。「知らない」。「知らんといかん。一緒にいなくちゃ。がっかりさせるな」。「何してようが興味ないね」。「そんな言い方はよせ。お前が何時間も閉じこもってるから、シャルルが退屈してる。前は、外へ出て庭をぶらついてたじゃないか」(1枚目の写真)。「そう、ママとね」。「ママは死んだんだ。ママのことは、あまり考えるな」。そして、父は、3人を車に乗せて走らせる。見晴らしのいい丘に陣取って、ピクニック気分を味わう4人。父は、シャルルの母が横になっている姿に見惚れている。もっと近くで、その顔を見ていたトマ。シャルルの母は目を開けると、そんなトマを見て、「大丈夫なの、トマ?」と訊く。「暑すぎない?」。微笑んで首を振るトマ。母は藤かごからハンカチを取り出すとトマの顔の汗をやさしく拭き取る。頬を撫でられ、「とても柔らかい肌ね」と言われ、トマも微笑む(2枚目の写真)。本当の母と子といったムードだ。一方のシャルルは一人で凧を揚げている。風に煽られて岩場に引っかかった凧を取りに行く手助けをしたのは、トマの父。岩場の上に立って一緒に遠くを見る姿(3枚目の写真)は、これも本当の父と子を思わせる。「めまいがしないか?」。「いいえ、しません」。「敬語は使わなくていいよ」。そのやり取りは聞いてなくても、下から2人を見上げるトマの目は嫉妬に燃えている(4枚目の写真)
  
  
  
  

復讐は即座に実行された。その夜、シャルルがベッドに入ると、足先に変なものが触る。布団を除けると、そこには血まみれの大カラスが置かれていた。悲鳴をあげてカラスごとシーツを持つと、シャルルは、2階の手すりからシーツを放り出し、「こんなとこ、出て行きたい!」と叫ぶ。悲鳴を聞いた母が飛んできてシャルルを抱く。「ママ、出て行こう。家に帰りたい」と必死だ(1枚目の写真)。父は、鍵の掛かったトマの部屋のドアを破り、トマを捕まえると、1階に落ちたカラスの死骸を見せながら、「なぜ やった?」と厳しく問い詰める(2枚目の写真)。「やってない!」。「やってないと、お前の母の墓に誓え!」。「そんなの絶対 誓うもんか!」。そして失神する。父は、シャルルの母に、「出て行かないで」と頼み、次には、「息子は、あなたのことが好きだ。受け入れている。あなたを必要としてる」と言い、最後は、「私も、あなたが必要だ」「行かないで。一緒にいて欲しい」と懇願する(3枚目の写真)。抱き締められた後、「お願い、やめて」「構わないで!」と一旦は部屋に去ったシャルルの母だったが、翌朝になると気が変わっていた。こんな素敵な城の女主人になりたい という欲望があったのであろう。
  
  
  

翌日、母は庭の隅の木陰にシャルルを連れて行くと、妥協案を示す(1枚目の写真)。「ねえ、坊や、ブレオーさんと長いこと話したの。トマのことよ。あの子は、虚弱なの。何度も失神したって。今は お医者様。夕方には戻るわ。許してあげて」。「僕に 謝ると思う?」。「そうじゃないの。大事なのは、あなたが心の中で、あの子を許すこと。恨まないの」。それを聞いて、シャルルは「なんだ、ここにいるのか」とがっかりする。そして、一人で森へ行こうと、日中からマッチ、ヒモ、ナイフ、パンなどを拝借してはリュックに詰めて準備する。そして、夜になってから、少額の紙幣を盗み出したところをトマに見つかってしまう。「泥棒! こそこそしたチビ泥棒め」「逃げる気だな」(2枚目の写真)。「違う」。「嘘つき。お前は嘘つきで泥棒だ。父を起こして話すからな」。トマの口を押さえるシャルル。シャルルが手をどけると、「僕が怖いんだろ」。「怖くない」。「じゃ、なぜ逃げ出す」。「それは秘密だ」。「僕もついて行くぞ」。シャルルの自由への逃避行が、これでは台無しになってしまう。
  
  

森の夜歩きは、慣れていないトマには大変だった。だから、シャルルに始終話しかける。「森に入るのは、父に禁じられている。危険なんだ」「道は 合ってるか?」「どこに行く? 決めてないんだろ?」。うるさく思ったシャルルが、「怖いのか?」と訊くと、「怖いはずないだろ」。「森には夜行性の動物がいる。イノシシやオオカミだ」。「ここには、オオカミなんていない」。「いるさ、絶対」。「お前の母親、いなくなったって気付いてるぞ」。「母さんは起きないから、朝までには遠くに行ってる」。「どのくらい来た?」。「5、6キロ」。「まさか、もっとだろ」。ここで、トマが、「足が つった」と言い出す(1枚目の写真)。「懲りただろ。歩く時は 口を閉じてろ」。そして、雷鳴が轟き、急に雨が降り出す。「避難しないと」とオロオロするトマを放っておいて、どんどん先へ進むシャルル。次第に夜が明け、2人は巨石の間を縫って進んで行く。トマは遅れてしまい、「シャルル、待てよ。息ができない」。それでも、シャルルは待ってくれない。遂にトマは「こんな遊び もうウンザリだ」と言い出す。「迷ったんだ。お前のせいだぞ。お前なんか大嫌いだ。誰も助けに来ない」。そして、岩に跪くと、神に祈り始める。すると、突如として光がトマに降りかかる(2・3枚目の写真)。写真の下の方に、空に向かって両手を上げるトマが小さく映っている。しかし、なぜ、よりによって「罪深き天使」に神の光らしきものが? ここが、映画の中で一番理解できない部分だ。祈りが終わるとともに、光も消える。シャルルは、この超常現象を見て進むのをやめ、トマと合流する。トマは、「もう戻るんだ、シャルル。僕に従え。戻ろう」と言うが、「どこにも行けないぞ」の言葉にシャルルが硬化する。「行き先を 知らないくせに」。「推測は簡単さ」。「言ってみろ、知ったかぶり」。「海に出てボートを見つけ、父親を捜しに行く」。「そうじゃない」。「そうさ。会えないと分かってるのに。死んでるんだから」。「母さんがいないから、そんなこと言うんだ」。「母は要らない。父の方がいい。男だったら、お前のママが、僕のパパにやってるみたいな尻軽はしないからな」。「嘘つき! 君の父さんなんか知るもんか」。「父は金持ちで、お前たちは貧乏だ。お前のママは、僕のパパと結婚するつもりだ。女なんて、そんなもんだ。お金や、家や、ドレスを欲しがる」。これで完全に切れたシャルルは、トマと取っ組み合いの喧嘩を始める。当然勝ったのは、年も上で体も丈夫なシャルル。トマを組み敷き、「今から、僕の捕虜になれ」と命じる(4枚目の写真)。
  
  
  
  

両手を縛られ、さるぐつわをはめられたトマ。沼やブッシュや岩の間を、捕虜のように引きずりまわされる(1枚目の写真)。2人がやってきたのは、深い淵の上に倒れたかかった1本の木。激流が渦を巻き、そのすぐ下は滝になっている。シャルルはトマの拘束を解く。さっそく、「他に道があるはずだ。戻ろう」と嘆願するトマ。「指揮官は僕だ」。そして、シャルルは平気で木の幹を歩いて渡って行く。しかし、城で大切に育てられたトマにそんなことができるはずはない。「僕には できない」とはっきり言う。「できるさ、簡単だ。泣き言やめないと、置き去りにするぞ」。仕方なく、最後の枝まで来たトマ。「落ちちゃうよ」と言いつつ、体を下げて、幹の上に跪き、最後は、幹を両腕で抱いてしがみつく。これでは、前にも後ろにも進めない。「シャルル、助けて、早く! 落ちちゃう!」と叫ぶ。シャルルは、トマの手前まで歩いてきて、幹に抱きつき、「僕の手を つかめ。目を開けて、僕を見ろ」と言う。「できないよ、目が回る」と、トマは目が開けられない。「右手を離して僕の手をつかめ」(2枚目の写真)。この時代、特撮はないので、スタントを使っているのだろうが、非常に危険な場面だ。ようやくシャルルの手に触れたトマ。しかし、シャルルは、手を戻すと、「僕の部屋に石を投げたのは誰だ?」と問い詰める。「僕だ」。「僕のベッドにカラスを置いたのは誰だ?」(3枚目の写真)。「僕だ」(4枚目の写真)。「いいか、僕の言う通り くり返せ。『僕は、君にしたことを謝ります』」。仕方なく、謝罪するトマ。「よし、じゃあ来い」と言うと、シャルルはトマの左手をつかんで引っ張るが、結果として、トマの体が右にねじれて、そのまま淵に落ちてしまう(5枚目の写真)。
  
  
  
  
  

こうなると、立場は逆転。真っ青になったのはシャルルだ。淵から滝、そして滝壺に落ちるトマ。頭を打って死んだか、ひどく骨折したのかもしれない。シャルルは必死に下流へと走る。意識を失ったトマが、どんどん流されていくのが見える。シャルルは渓流に入って行き、流れてきたトマを何とか受け止める(1枚目の写真)。そして、トマを川から出して石の上に横たえるが意識もないし、息もしていない。両手を合わせ、天を仰ぐシャルル(2枚目の写真)。啓示を受けたのか、これしか方法はないと覚悟したのか、人工呼吸で息を吹き込む(3枚目の写真)。それが効を奏してトマは水を吐き出し、呼吸が元に戻る。目を開けたトマは、「僕は死んだ」とつぶやくが、シャルルは「いいや、トマ、死んでない。僕だ。ここにいる」と声をかける。意識の戻ったトマは、「殺せ」と一言。それを聞いたシャルルは、先の尖った木の枝を手に取り、「そうだな。殺した方がいい。見つかったら、べらべらしゃべって、僕を裏切るだろうからな」と言う。そして、尖った枝の先端をトマの喉に当てると、「死んじまえ、ベトナム野郎!」と叫んで刺そうとする(4枚目の写真)。しかし、トマに見つめられたまま、その首を刺すことなど、シャルルにはとてもできない。枝を捨てた時、トマの捜索隊がなだれを打つように駆けつけた。
  
  
  
  

医者のベッドで寝ているトマ。幸い骨折はなく、ひどい捻挫だけで済んだ。トマは、「パパ、僕 行きたくなかった。あいつが、無理やり連れてった」と嘘をつく(1枚目の写真)。医者は、父と一緒にいたシャルルの母を、トマの母親だと思って、「ママ謝るんだな。こんなに心配かけて」。その言葉に反論せず、トマの前に立った「母」に両手を差し出すトマ。シャルルの母も、それを受け入れるようにトマに手をかけ(2枚目の写真)、抱き締めた。岩場では、シャルルの母のことをさんざん貶していたのに、今のトマは、先日のピクニックの時のように甘えている。芝居なのか、本気なのか映画でははっきりしない。その時、廊下から、シャルルが「ママ」と呼ぶ。明らかに、2人の抱擁を見て嫉妬したのだ。駆け寄った母に、「あんなの嘘だ。無理やり連れてったんじゃない」と言う。それを耳にしたトマは、すかざず「無理やりだ。帰りたくても許さなかった。僕を突き飛ばした」。「嘘だ。触ってもいない」。「頭を水に突っ込んで、蹴ったり殴ったりした」。このひどい誣告にキレたシャルルは、「お前なんか、殺してやればよかった」と、あの時の決断を悔いる発言をし、確かにその部分だけ聴けばひどい内容なので、トマの父に頬を打たれる(3枚目の写真)。トマは、叩いた父を誇らしげに見上げる(4枚目の写真)。シャルルは、洗面台で、母に鼻血を拭いてもらっている。「なぜ、逃げ出したの?」。「森で一晩過ごしたかった。パパみたいに」。そして、「あんなの嘘だ。僕を信じる?」と訊く。「もちろんよ」。母子の信頼関係は持続している。「ママが心配すると思わなかったの?」。「思ったけど、何も危ないことなかった。僕には、怖いものなんかない。ダルタニャンさ」(5枚目の写真)。
  
  
  
  
  

トマを医院に残して、3人で帰宅する途中、シャルルの母は、2人のいた場所を見たがる。車を降り、母親の手をひいて沢まで降りていくトマの父。そして、2人は森の中で抱擁する(1枚目の写真)。その後、車のバックシートに横になったまま遠くをみつめるシャルルの顔が映される(2枚目の写真)。2人が抱き合っているのは、車よりも下にある沢なので、シャルルには見えない。連想していたのかもしれないが。
  
  

翌日、トマが帰ってくる。右足首を包帯で固定し、両手で杖をつき、片足で歩く。痛々しい姿だ(1枚目の写真)。トマがこうなった責任の半分は、勝手について行ったトマ自身にあるが、残る半分は無謀な淵渡りをさせたシャルルにもある。従って、その姿を窓から隠れて見ているシャルルの顔も暗い(2枚目の写真)。しかし、トマの反撃はたちどころに下された。遭うなり、シャルルの耳に小声で「お前の母は売春婦」と囁いたのだ(3枚目の写真)。
  
  
  

その夜、トマはシャルルに、母親のベッドが空なのを見せる。「これで 納得したろ? あの女は部屋にいない。2人を見たいか? 鍵穴から 覗けるぞ」。拒否するシャルル。逆に「どうやって分かった? そう言われたのか?」と訊く。「そんな訳ないだろ、バカ。医院で見たんだ。僕が眠ってると思って、ばっちりキスしてた」。そして、「あの女は嫌いだ。お前も嫌いだ。ここから出て行け」と命令する。母が現れるかもと心配するシャルルに、「心配するな。夜中あっちでねんごろさ」(1・2枚目の写真)。そして、さらに、「その後」について話す。「どうなるか分かるか? パパは、お前を僕と同じ学校に入れる。同じ寮だ」。「なぜ?」(3枚目の写真)。「転校生だから、配慮されるのさ」。「それが どうした」。「お前の知らないことがある。僕は寮の監督生だから、何でも思いのままだ。新入りがどうなるか知ってるか? 地下室に閉じ込めてやる」。「君が落ちた時、漏らしたことバラすぞ」。「誰も聞かない。新入りの話なんかな。新入りは、話しかけられた時以外、話せないんだ」。自分の恐ろしい将来を知らされて、思わず吐いてしまうシャルル。にやりとしたトマは、「お前の母を連れて 出て行くと誓え」と迫る。誓わされた後、「じゃあ、誓約を血で封印しよう」とハサミで中指の先端を付いて血を出すと、「舐めるんだ」とシャルルに血を飲ませる(4枚目の写真)。シャルルの血を飲んだ後、トマは、「誓約を破ったら、お前は地獄に落ちる」と宣告する。
  
  
  
  

2人は、人目につかない車庫に行くと、寸劇の練習を始める。トマが金持ちの父役、シャルルが尻軽女の母役だ。内容は、如何にシャルルの母が淫らにトマの父を誘惑するかというもの(1枚目の写真)。観ていて楽しいものではないし、ここまでさせるトマが異常に思える。シャルル扮する母のスカートに、トマ扮する父が顔を突っ込んで互いに笑い声を上げている時、シャルルの母が姿を現す。恐らく、途中から一部始終を見ていたのであろう。そこには、恥と怒りの両方があった。母は、「行きましょ、シャルル。家に帰るの」と話しかけ、女装したシャルルの手を引いて足早に城に向かう。それを、びっこをひきながらトマが追いかける。その奇妙な一行に、車で帰宅した父が「どうした? 何があった?」と寄って行く。それを見て、母に抱きつくシャルル。母は「近付かないで」とだけ言って城に入って行く(2枚目の写真)。
  
  

城の前に停まった車に母子が乗っている(城主の高級車ではない)。母のトランクが載せられる。その時、トマの「待って」という声がして、封筒を持ったトマが来ると、シャルルの荷物に封筒を入れる。そして、後部座席のシャルルの前まで来ると、「謝礼を入れておいた」と言い、「さよなら、シャルル」と付け加える(1枚目の写真)。シャルルは無視するが、母はトマをじっと見つめる。思わず目を逸らすトマ。車が出て行き、トマが城に戻ると、父はトマに、「あっちへ行け」と命じる。「悲しいの? 明日の朝、告解に行くよ」と話しかけると、怒りを爆発させた父が、「失せろ!!」と怒鳴る。トマが逃げると、先回りして「失せろ。聞いてるか、トマ。お前なんか 二度と見たくない!」と追い討ちをかける。トマが逃げて階段の下で倒れると、父はトマを跨ぐように立ち、「立てトマ。騙してるのは分かってる」と告げる。トマが気絶したふりをした顔を起こして父を見上げると、「ずっと騙してたな」と訊く。その言葉にニヤリとするトマが怖い(3枚目の写真)。
  
  
  

一方、帰宅したシャルルたち。シャルルがおもむろに荷物を解くと、一番上にトマが入れた封筒が乗っている。開けると中には大金が入っていた(1枚目の写真)。母が、それを見つけ、「そのお金、どうしたの? 盗んだの?」。「違うよ。トマがくれたんだ」。そして、「持ってて。僕は要らない」とお金を渡そうとする。母は、「すぐ、送り返しなさい」と命じるが、逆にシャルルは、「イヤだ! 僕のだ。好きなようにする!」と主張する。母に、ドアをロックされ、「そこにいなさい。寝なさい。夕食は抜き」と叱られ、謝って許してもらう(2枚目の写真)。そして、城の2人のことは二度と口にせず、心から閉め出し、絶対に会わないと誓わせられる。
  
  

しかし、シャルルの母が忘れられないトマの父は、一家の住んでいる町まで車でやって来る。そして、トマの好きなお菓子を持って、遊びから帰って来たところを待ち構える。逃げるトマ。トマは、鉄道高架橋の中の通路に逃げる(1枚目の写真)。日本では馴染みのない風景なので、コメントしておこう。この撮影場所は、ボーマヌワール城から西に60キロほど離れたモルレー(Morlaix)という町の真ん中を横切る1863年に出来た石造の高架橋。長さ292メートル、一番高い所で62メートルもある。橋には、人が歩けるよう、下部に歩道があり、そこを2人が走っている。下部でも、結構高いので、シャルルの手放したボールが隣接した屋根の上に落ちていく。私はブルターニュには行ったが、この町には行ったことがないので、代わりに、私が撮ったフランス1大きなショーモン鉄道高架橋の全景写真を付けよう(2枚目の写真)。この橋には、歩道橋が上下2段付いている。こういう場所を2人が走っていたのだ。話が脱線してしまったが、シャルルは結局捕まり、歩道橋の欄干の上に2人で座り、お菓子を食べながら話を聞かされる。「君に会ったのは、君のお母さんが私を避けているからだ」。「知ってます。母から聞きました」。そして、トマの父は、こう打ち明ける。「大人の友達みたいに話していいかな? 君のお母さんを 愛している。そのことを 知って欲しい。話してくれないか」。「もし、愛してなかったら?」。「愛してるとも。証明してくれた。女性が隠そうとしても 男には分かるんだ。君には 理解できんだろうが。あの時、引き止めるべきだった。そのことでは、君もだよ。私は、君が好きだ。キスしてもいいかい?」。そして、シャルルの首筋にキスする(3枚目の写真)。「日曜に、来て欲しい。5時の列車だ」。
  
  
  

シャルルは、母に戻って欲しくない。戻れば、トマに支配されるからだ。だから、日曜の5時には、駅とは離れた場所で母を隔離しておこうと、4時から、母と一緒に喫茶ルームにいる。母は白ワインを飲み、シャルルの前にはビールが(1枚目の写真)。「飲み干して。死なないから。夏休み最後の日曜を、お祝いしましょ」。そして、2人で踊り始める。シャルルはどうしても時間が気になり、時計を見てしまう。5時2分前だ(2枚目の写真)。安心しきって、母に抱かれて笑うシャルル。そして5時。汽笛が聞こえる。その瞬間、シャルルは母に、「ブレオーさんが、僕に会いに来た。ママを愛してるんだって」と打ち明ける。母は、行くまいと信じて。
  
  

しかし、シャルルは甘かった。母の決断は早かった。さっそく家に戻ると、服も着替えず、簡単な荷物だけ持って、次の列車に乗ったのだ。そして、駅から歩いて決然と城へと向かう(1枚目の写真)。決然と書いたのは、シャルルが遅れようがお構いなしに、ひたすら歩き続けたからだ。「城の女主人」になりたいという欲望はそんなにも強かったのか、と改めて思い知らされる。城に入るなり、「ジャン」とファーストネームで叫びつつ、城の中を走って捜し回る。シャルルは、あっけにとられて、ただ見守るばかり。こんな母を誰が想像できよう。彼女がどうしても結婚したい相手は、トマと一緒にベッドで寝ていた。寄って行き手を握ると、トマの父は目を開け、「君の夢をみていた」と微笑みかける。そして、トマが隣にいるにもかかわらず、2人は熱烈にキスをする(2枚目の写真)。「二度と手放さない」。その言葉を黙って聞いているトマの顔が怖い(3枚目の写真)。
  
  
  

城に入った後、どうしていいか分からず、階段の下で立ち尽くすシャルルの前に、トマが現れる(1枚目の写真)。「誓約を破ったな」。そして、「僕が 武器を選ぶ」と言い、シャルルに決闘を意味する白手袋を投げつけた。選んだ武器は細身の刺突用の片手剣レイピア。シャルルはずぶの素人。刺されれば死ぬので、逃げるしか手はない。しかし、トマにとっては勝手知った場所なので、簡単に追い詰められ、床に倒され、喉に切先を突きつけられる(2枚目の写真)。森のシーンの裏返しだ。トマは、「お前は、前に僕の命を助けた。借りは返したぞ」と言って剣を捨てる。
  
  

恐らく、翌日。シャルルが学校の制服を着て、鏡の前に立つ。トマは、どこからとなく現れて、横に並ぶ(1枚目の写真)。「これから、いろんなことが起きるぞ、シャルル」。不気味な「虐め」宣言だ。シャルルは、「君はもう、僕に手出しできない」と謎めいたことを言う。トマの父とシャルルの母が仲良く並んで玄関に立つ。母は如何にも幸せそうだ(2枚目の写真)。母と目線が会う。かすかに微笑みかけるシャルル(3枚目の写真)。母のすべてを許したのだろう。4人並んで記念写真を撮るが、シャッターが下りた瞬間、シャルルは逃げ出した(4枚目の写真)。後を追って海まで来たトマが見たものは、浜辺に脱ぎ捨てられた服や靴だった。シャルルは入水自殺したのだ。服の前に跪き、「シャルル!!」と叫ぶトマ(5枚目の写真)。映画はここで終わるが、その後どうなったかが非常に気にかかる。シャルルの母は、息子をここまで追い詰めた自分の身勝手な行動を許せるのだろうか? トマの父は、もしトマがシャルルの学校生活を破壊しようとしていたことを知ったら、トマを許せるだろうか? そして、トマは人を間接的に死に追いやったことを、どう受け止めて一生を送るのだろう? 原作のエドモンドと違い、より繊細そうなので、精神的な打撃を受ける可能性が高い。
  
  
  
  
  
  

  Rの先頭に戻る    の先頭に戻る            の先頭に戻る
     フランス の先頭に戻る               1980年代 の先頭に戻る

ページの先頭へ